ワインリストの一行からわかること
レストランのワインリストやテイスティングシートには、たいてい生産者、銘柄、産地呼称、ヴィンテージ、ときにアルコール度数が並びます。一つずつ読めばただの名前と数字ですが、まとめて読めば、注ぐ前にワインの姿を描けます。その土地がどれほど暖かいか、その年の生育期はどうだったか、醸造所で何が行われたか、収穫時にブドウがどこまで熟していたか、です。
方法は二段に分かれます。まず、手がかりの一つひとつを、グラスで裏づけたり覆したりできる予想に変えます。酸が高いか低いか、果実が熟しているか若々しいか、新樽の気配があるか、といった具合です。次に味わって比べます。外れようのない予想からは何も学べないので、最初の一口の前に書き留めておきます。
以下の節では、産地団体、生産者、研究者が公表している事実を例に手がかりを順に取り上げ、最後に演習を二つ置きます。この方法が与えるのは推論の道筋であって結論ではありません。ヴィンテージや生産者の詳細は、そのボトルについて必ず確かめてください。
ワインリストの一行にある各手がかりが抜栓前に示唆することと、注いだ後に確かめること。予想は傾向であって確実なことではありません。
図の内容を文章・表で読む
| 抜栓前に示唆すること | グラスで確かめること | |
|---|---|---|
| 産地呼称 | その土地の気候と土壌 | 酸と果実の熟度 |
| ヴィンテージ | その年の生育期の天候 | アルコールと酸のバランス |
| 生産者 | 新樽などの醸造の選択 | 樽由来のバニラ、ココナッツ、クローブ |
| アルコール度数と甘辛表示 | 収穫時の熟度と法定の糖分区分 | ボディ、温かみ、甘み |
産地呼称から気候を読む
産地呼称は場所を決め、場所はブドウが育った気候を決めます。最初の仕分けは、その産地が水の影響で穏やかなのか、夏が乾く地中海性気候なのか、季節の振れ幅が大きい大陸性気候なのか、です。ナパ・ヴァレーは乾燥した地中海性気候で、ピエモンテのランゲは、秋に霧が出る大陸性気候のもとでネッビオーロが遅く熟します。またサンテステフの畑は、メドックのジロンド河口のそばにあります。
気候が重要なのは、気温が成熟を動かすからです。暖かい条件では糖の蓄積が速まって潜在アルコール度数が上がり、酸が減って pH が上がります(ミラ・デ・オルドゥーニャ、2010年)。冷涼な産地の一行は生き生きした酸と中程度のアルコールを、暖かく乾いた産地の一行はよく熟した果実と高めのアルコールを示唆します。
これらは確かめるべき傾向であって、確実なことではありません。畑、ヴィンテージ、醸造のそれぞれが、ワインを産地の典型から遠ざけることがあります。だから次の手がかりが重要になります。
土壌からわかること、わからないこと
土壌は読み込みすぎやすい手がかりです。ボルドーの畑を調べたファン・レーウェンらの研究(2004年)は、土壌がブドウに及ぼす影響は主に水の供給を通じたものだと示しました。生育期に水を制限する土壌では果粒が小さく、黒ブドウの色素とタンニンの濃度が高い傾向があり、水を保つ土壌では果粒が大きくなりました。
このため、土壌は凝縮度の手がかりとして読めます。サンテステフのテロワールの土壌には砂利が含まれ、砂利質の土壌はボルドーの研究でも調べられた土壌の一つです。「サンテステフ」とある一行は、河口で和らげられた気候の、水はけのよい土地から来た赤ワインを示唆します。グラスの色とタンニンで確かめましょう。
推論はこの仕組みの範囲にとどめます。研究は土壌の影響をブドウの水分状態で説明しているので、土壌から安全に推論できるのは果粒の大きさと凝縮度であって、岩の味がワインに移るということではありません。
生育期をたどってヴィンテージを読む
ヴィンテージは一つの季節の天候の記録です。年を良し悪しで分けるのではなく、ブドウの一年の各段階で何が起きたかを思い出します。萌芽、開花と結実、果粒がやわらかくなり黒ブドウが色づくヴェレゾン、そして収穫までの成熟期です。ジョーンズとデイヴィス(2000年)はボルドーの記録を用いて、これらの段階の天候を、段階の時期、収穫時のブドウの糖と酸、ワインの品質と関連づけました。
テイスティングに最も直結するのは成熟期です。ヴェレゾンから収穫までが暖かいと糖が増えて潜在アルコール度数が上がり、酸は減る傾向があります。成熟期が冷涼なら酸が高く、アルコールは低めに保たれる傾向があります(ミラ・デ・オルドゥーニャ、2010年)。ただし暑さは単純に「よく熟す」ことではありません。非常に高い気温は、黒ブドウの色素の蓄積を妨げることもあります(ミラ・デ・オルドゥーニャ、2010年)。
ヴィンテージの性格は産地ごとに異なります。ある産地で暑かった年が、別の産地では冷涼だったり雨が多かったりします。「当たり年」という一語に頼らず、リストにある産地のヴィンテージ・レポートを確かめましょう。
同じ垣根仕立てのブドウ樹の列を、左から右へ萌芽から収穫まで描いています。ジョーンズとデイヴィス(2000年)は、ボルドーでこれらの段階の天候を収穫時のブドウの成分とワインの品質に関連づけました。形と色は説明のための表現です。
図の内容を文章・表で読む
- 萌芽 — 新梢が伸び始め、生育期が始まる
- 開花と結実 — 花が咲き、果粒ができる
- ヴェレゾン — 果粒がやわらかくなり、黒ブドウが色づく
- 収穫までの成熟 — 暖かさが糖を増やし、酸を減らす
生産者:予想できる醸造の選択
同じ産地呼称、同じヴィンテージでも、生産者によってワインは変わります。多くの選択は技術資料に書かれています。除梗したか全房で発酵したか、樽でどれだけ熟成したか、新樽の比率、容器の大きさなどです。どの選択が当てはまるかは、生産者の技術資料と過去のワインが最もよい手がかりです。
グラスで最も確かめやすいのは樽です。樽からはワインに香りの成分が溶け出します。バニラの香りのバニリン、ココナッツにたとえられるオーク・ラクトン、クローブの香りのオイゲノールなどです。新樽は使用済みの樽より多くを与え、アメリカンオークはフレンチオークよりココナッツ様のラクトンを多く与える傾向があります(ガルデ・セルダンとアンシン・アスピリクエタ、2006年)。新樽で知られる生産者ならこれらの香りを、大きな古樽や樽香の出ない容器で知られる生産者なら、樽の影響が少なく果実が前に出ることを予想します。
マロラクティック発酵も手がかりになります。乳酸菌がリンゴ酸をよりまろやかな乳酸に変え、バターのような香りのもとになるジアセチルを生むことがあります(バートウスキーとヘンシュケ、2004年)。マロラクティック発酵はほとんどの赤ワインと、一部の白ワインやスパークリングワインで行われます。そのため白ワインでは、生産者のスタイルからバターの香りの有無を予想できます。
アルコール、酸、甘辛の表示
アルコール、酸、pH、糖は互いに結びついています。ブドウの糖は発酵でアルコールになるので、リストのアルコール度数は収穫時の熟度の手がかりになります。酸と pH は逆向きに動きます。暖かい成熟期に酸が減ると pH が上がり、pH が高いワインは腐敗をもたらす微生物に対して守りが弱くなります(ミラ・デ・オルドゥーニャ、2010年)。
甘辛の表示は法律で定義されており、糖がゼロという意味ではありません。EU のスティルワインの規則では、「辛口」は糖 4 g/L まで、または総酸度が糖の含有量より 2 g/L を超えて低くない場合は 9 g/L までを認めます。「やや辛口」は 12 g/L まで、または酸が糖より 10 g/L を超えて低くない場合は 18 g/L までです。「やや甘口」は 45 g/L まで、「甘口」は 45 g/L 以上です(欧州委員会委任規則(EU)2019/33 附属書 III)。
これらを合わせると、味わう前の枠組みができます。暖かい産地でアルコールの高い一行はふくよかなボディと低めの酸を、冷涼な産地で中程度のアルコールの一行は生き生きした酸を示唆します。辛口と表示されたワインにも、数グラムの糖が含まれていることがあります。
欧州委員会委任規則(EU)2019/33 附属書 III による上限。酸の条件とは、総酸度が糖の含有量より、辛口では 2 g/L、やや辛口では 10 g/L を超えて低くないことです。「甘口」は 45 g/L 以上です。
図の内容を文章・表で読む
糖分の上限(g/L)
- 辛口: 4 g/L
- 辛口(酸の条件つき): 9 g/L
- やや辛口: 12 g/L
- やや辛口(酸の条件つき): 18 g/L
- やや甘口: 45 g/L
グラスで仮説を確かめる
ワインを注いだら、予想を一つずつ確かめます。まず色です。赤ワインの色素は熟成とともに変わります。ブドウ由来のアントシアニンが派生色素に置き換わり、色は紫がかった赤からレンガ色の方向へ移ります(ホーら、2012年)。縁が紫なら若いワイン、レンガ色なら熟成の進んだワインと合致します。
香りと味わいでは、予想した手がかりを探します。新樽を予想したなら樽の香りを、白ワインでマロラクティック発酵を予想したならバターの香りを、そして気候とヴィンテージから推論した酸、アルコール、タンニンのバランスを確かめます。各段階の技法は、レビューを読む前にワインを観察する記事で解説しています。
グラスと仮説が食い違ったら、無理に合わせず違いを記録します。予想より酸が高ければ冷涼な畑や年を、予想より樽が強ければ別の醸造の選択を示しているかもしれません。正式な官能評価の方法については、OIV がワインの官能分析に関する総説文書を公表しています。
AI
·
縁の色を見る
画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original
演習1:二つの一行、二つの気候
【設問】リストに「サンテステフ、赤、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロ、13.5% vol」と「ナパ・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン、14.5% vol」があります。この二行だけから、二つのワインの酸、アルコール、果実の熟度の違いを予測し、それぞれの理由を説明しなさい。
【模範解答】サンテステフはメドックのジロンド河口のそばにあり、河口が気候を和らげ、土壌には水はけのよい砂利が含まれます。ナパ・ヴァレーは乾燥した地中海性気候です。暖かく乾いた成熟条件は糖を増やし酸を減らす傾向があるので、ナパのワインはよく熟した果実と、表示の高いアルコール度数に見合うふくよかで温かみのある味わいを、サンテステフは生き生きした酸と中程度のボディを示すはずです。どちらも傾向にすぎず、ヴィンテージと醸造で変わりうるので、グラスで酸、ボディ、果実の熟度を確かめます。
【採点基準(10点)】産地呼称から各ワインの気候を特定している(3点)。暖かい成熟を、糖とアルコールの増加および酸の減少と結びつけている(4点)。予測を傾向として扱い、グラスで確かめる点を挙げている(3点)。
演習2:同じ産地呼称、二つのヴィンテージ
【設問】同じ生産者の、同じ産地呼称の赤ワインが二つのヴィンテージで並んでいます。一方の年はヴェレゾンから収穫までが暖かく乾燥し、もう一方の年は冷涼でした。アルコール、酸、pH の違いを予測し、理由を説明しなさい。
【模範解答】暖かい成熟期は糖の蓄積と酸の減少を速めるので、暖かい年は潜在アルコール度数が高く、酸が低く、pH が高くなり、冷涼な年は酸が多く残り、アルコールは低めになるはずです。生産者と産地呼称が同じなので、グラスでの違いは畑や醸造よりも季節に由来する可能性が高いといえます。ただし生産者は収穫日や醸造をその年に合わせて調整することもあります。結論を固める前に、その産地のヴィンテージ・レポートを読みます。
【採点基準(10点)】成熟期の気温を主な要因として挙げている(3点)。アルコール、酸、pH の変化の向きを正しく予測している(4点)。収穫日と醸造の選択が季節の影響を打ち消しうること、産地のレポートを確かめるべきことに触れている(3点)。
一行を読む
- 産地呼称:場所と気候
- ヴィンテージ:その年の天候
- 生産者:予想される醸造の選択
仮説を立てる
- 予想される酸とアルコール
- 予想される熟度と色
- 予想される樽とマロラクティックの香り
グラスで確かめる
- 外観:縁の色
- 香りと味わい:予想と一つずつ比べる
- 違った点と理由を記録する
よくある質問
演繹的テイスティングとは何ですか。
産地呼称、ヴィンテージ、生産者、アルコール度数から、味わう前にワインの骨格について仮説を立て、グラスで予想を一つずつ確かめ、外れた点を記録する方法です。
抜栓前にヴィンテージから何がわかりますか。
その年の天候の手がかりになります。ヴェレゾンから収穫までが暖かいと糖と潜在アルコール度数が上がり酸が下がる傾向があり、成熟期が冷涼なら酸が高く保たれる傾向があります。同じ年でも産地によって異なるので、その産地のヴィンテージ・レポートを確かめます。
EU のラベルの「辛口」は糖がないという意味ですか。
いいえ。スティルワインでは、辛口は糖 4 g/L まで、総酸度が糖の含有量より 2 g/L を超えて低くない場合は 9 g/L までが認められています。
ワインで土壌の味を感じられますか。
単純にはそうはいえません。ボルドーの畑の研究では、土壌は主にブドウへの水の供給を通じて作用し、果粒の大きさや黒ブドウの色素とタンニンの濃度に影響していました。
情報源
- EUR-Lex — 欧州委員会委任規則(EU)2019/33 附属書 III(ワインの糖分の表示)
- OIV — ワインの官能分析に関する総説文書(2015年)
- ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ — ナパ・ヴァレーがワイン用ブドウの栽培に適する理由(気候・土壌・地形)
- バローロ・バルバレスコ・アルバ・ランゲ・ドリアーニ保護協会 — 気候
- バローロ・バルバレスコ・アルバ・ランゲ・ドリアーニ保護協会 — ネッビオーロ
- シャトー・カロン・セギュール — 唯一無二のテロワール
- van Leeuwen C. et al. (2004) Influence of climate, soil, and cultivar on terroir. American Journal of Enology and Viticulture 55(3): 207–217
- Jones G.V., Davis R.E. (2000) Climate influences on grapevine phenology, grape composition, and wine production and quality for Bordeaux, France. American Journal of Enology and Viticulture 51(3): 249–261
- Mira de Orduña R. (2010) Climate change associated effects on grape and wine quality and production. Food Research International 43(7): 1844–1855
- Garde-Cerdán T., Ancín-Azpilicueta C. (2006) Review of quality factors on wine ageing in oak barrels. Trends in Food Science & Technology 17(8): 438–447
- Bartowsky E.J., Henschke P.A. (2004) The ‘buttery’ attribute of wine — diacetyl — desirability, spoilage and beyond. International Journal of Food Microbiology 96(3): 235–252
- オーストラリアワイン研究所(AWRI)— マロラクティック発酵を成功させるために(ファクトシート、2020年9月更新)
- He F. et al. (2012) Anthocyanins and their variation in red wines II. Anthocyanin derived pigments and their color evolution. Molecules 17(2): 1483–1519
