甲州とは:日本ワインの白を代表する固有品種
甲州は日本ワインの白を代表する固有のブドウで、2010年に日本固有の品種として初めてOIVの品種リストに登録されました。甲府盆地の気候、扇状地の土壌、棚仕立ての理由、シュール・リーなどのスタイル、GI山梨と日本ワインの表示ルールを、出典に沿って整理します。
甲州とは、日本で古くから栽培されてきた固有のブドウ品種で、日本ワインの白ワインでは中心となる品種です。果皮はピンク色を帯びますが、醸造では白ワインの原料となり、生食用としても利用されてきました。本稿は、山梨県の甲府盆地、とりわけ盆地の東縁にあたる勝沼(甲州市)を中心に、品種・気候・地形・土壌・栽培・醸造・表示の順に見ていきます。
起源については二つの伝承が伝わっています。718年(養老2年)、僧の行基が夢に現れた、ぶどうを手にした薬師如来の姿を刻んで大善寺に安置したという行基説と、1186年(文治2年)に雨宮勘解由が山道で見つけたつる草を持ち帰って育てたという雨宮勘解由説です。甲州市はこれらを伝説として紹介しており、史実として確定したものではありません。
DNAが示した起源と果実の特徴
起源の手がかりは、伝承ではなくDNA解析から得られました。酒類総合研究所は2013年、甲州の祖先にヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)と中国の野生種が関わり、甲州は中国を経由して日本に伝わったとする解析結果を発表しました。
2015年にPLOS ONEに掲載された研究では、核DNAの解析から、甲州の祖先の約70%がV. vinifera、残る約30%が東アジアの野生ブドウに由来すると推定されました。母系をたどる葉緑体DNAの部分配列は、中国の野生種V. davidii、またはその近縁種に由来することを示唆しています。
果実にも醸造に関わる特徴があります。甲州は果粒が大きく、糖度が上がりにくい品種で、この二つはワイン造りにとって扱いの難しい性質とされています。果皮はピンク色を帯び、収穫時の果皮に含まれるヒドロキシケイ皮酸とフラボノールの量は、欧州のワイン用品種より多いと報告されています。
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栽培・醸造学インフォグラフィック図解
甲府盆地と甲州:雨量・標高・国際登録
甲府地方気象台の解説による盆地の値。富士五湖・富士川流域の多雨地域はその2倍強
甲州市の地区区分による。甲州が主に栽培される大和地区は450〜500m
日本固有の品種として初。EU向けラベルに品種名「Koshu」を表示可能に
※ 本記事の画像および図解・分析モデルはすべて当社独自AI(Maison Apéro Proprietary AI)によって生成・設計された知的財産です。第三者による無断転載・他社AIモデル等の学習利用・商業利用を固く禁じます(© Atlas Associates Inc. / Maison Apéro)。
気候:夏の暑さ、少なめの雨、長い日照
甲府地方気象台の解説によれば、山梨県の年降水量は盆地で約1,000mmと少なく、富士五湖地方や富士川流域の多雨地域ではその2倍強に達します。盆地と八ヶ岳山麓は全国的にみて日照時間の多い地域で、甲府の年平均湿度は全国平均よりかなり低いとされています。
夏は高温になります。気象庁の記録では、甲府の日最高気温の観測史上1位は2013年8月の40.7℃です。甲州市は勝沼一帯について、日照時間が長く一日の寒暖差が大きいことを、ぶどう栽培に向く条件として挙げています。
ただし、雨が少ないというのは国内での比較です。農林水産省は、この地域で考案された甲州式棚などの栽培技術を、降水量の多い日本の気候に適応するためのものと説明しています。盆地の少雨と日本の多雨という二つの尺度を分けて読むことが、この産地を理解する出発点になります。
地形と土壌:扇状地が並ぶ盆地
内閣官房が公開する地下水資料によれば、甲府盆地は面積約230km²で、かつて湖だったといわれています。盆地は釜無川と笛吹川、その支流が運び込んだ土砂による五つの主要な扇状地から成り、扇状地の堆積物は主に砂と礫です。
甲州市は、ぶどう栽培の盛んな勝沼町について、土地の多くが扇状地上や山麓の斜面にあり、砂礫質で水はけのよい土壌が広がると説明しています。甲州市原産地呼称ワイン認証制度も、旧勝沼町域の大部分に扇状地が広がることを記しています。
ただし土壌は一様ではありません。同制度の地区区分では、勝沼北部の東雲地区は粘質土が主体、勝沼南部は砂礫質と粘土質、大和地区は粘土質とされています。扇状地をひとまとめに砂礫の土地とみなすと、畑ごとの違いを見落とします。
畑ごとの地層の深さや母岩の種類を示す一次資料は、本稿の時点で確認できていません。土壌断面の数値は出典待ちとし、推定では描きません。
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テロワール全景・景観解析
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標高と畑の向き
甲州市原産地呼称ワイン認証制度の地区区分によれば、勝沼北部の東雲地区は標高300〜400mにあり、平坦な畑が多い地区です。大和地区は標高450〜500mの、緩やかな斜面を持つV字谷にあり、栽培されるブドウは主に甲州で、その多くがワインの原料になります。
起伏そのものも産地の条件です。農林水産省は、山梨市・甲州市・笛吹市からなる峡東地域の農業を、起伏と傾斜の大きい扇状地を利用し、10品目以上の果樹をそれぞれの適地で栽培するものと説明しています。
畑の向き(斜面の方位)については、勝沼の畑を対象にした一次資料を確認できませんでした。本稿では方位を断定せず、出典待ちとします。
棚仕立て(甲州式棚)が選ばれてきた理由
棚仕立てとは、支柱で支えた棚面の上に枝を水平に広げ、房を頭上の葉の下に下げる仕立て方です。文化庁の日本遺産「葡萄畑が織りなす風景」は、江戸時代にブドウが後に甲州式と呼ばれる竹の棚で栽培されるようになったこと、ブドウはもともと乾燥を好む果物で、棚は通風がよく生育に適していたことを伝えています。
農林水産省は、約400年前に考案された甲州式棚と疎植・大木仕立て(株と株の間を広くとり、一本の樹を大きく育てる方法)を組み合わせた栽培を、降水量の多い日本の気候に適応するために開発された技術と位置づけ、現在は日本各地に普及していると説明しています。
明治中期に竹に代わって丈夫な針金が導入されると、地形を選ばず棚を組めるようになり、棚の畑は傾斜地にまで広がりました(日本遺産)。扇状地の起伏と、通風を重視する棚の仕組みが、甲府盆地東部のブドウ畑の景観をつくっています。
醸造とスタイル:柑橘の香り、シュール・リー、果皮の成分
甲州のワインは、はっきりした品種の香りに乏しいとされてきましたが、近年の研究で柑橘の香りを持つワインを造れる可能性が示されました。甲州のブドウには、柑橘様の香りを持つ3-メルカプトヘキサン-1-オール(3MH)の前駆体が含まれ、甲州ワインの香りに寄与することが報告されています(Goto-Yamamoto, 2019)。
シュール・リーは、フランス・ロワール地方のミュスカデの伝統的な表示です。フランス国立原産地・品質研究所(INAO)は、醸造後にひと冬を槽や樽で過ごし、瓶詰めの時点でもまだ醸造時の細かいおり(酵母)の上にあるワインを、この表示の対象としています。甲州でもこの名を冠したワインが造られており、GI山梨の認定ワインにも例があります(山梨県ワイン酒造組合)。
果皮の成分もスタイルに関わります。甲州の白ワインは、欧州の白品種から造ったワインより総フェノール量が多く、わずかな渋みを示すと報告されています(Frontiers in Plant Science, 2020)。本稿で出典を確認できたスタイルの要素は、香りを生かす造り、おりとの接触、果皮由来の成分の三つです。
ラベルの読み方:日本ワインの表示基準とGI山梨
国税庁は2015年10月30日に「果実酒等の製法品質表示基準」を定め、2018年10月30日から適用しています。この基準は、国産ぶどうのみを原料とし日本国内で製造された果実酒を「日本ワイン」と定義し、その表示を義務づけています。
日本ワインのラベルに地名を表示できるのは、その地名が示す範囲で収穫したぶどうを85%以上使い、その範囲で醸造した場合です。品種名を表示するには表示する品種を85%以上、収穫年を表示するにはその年に収穫したぶどうを85%以上使う必要があります。
地理的表示(GI)「山梨」は、2013年7月16日に国税庁が指定した、ぶどう酒として国内初の地理的表示です。名乗るためには、山梨県産のぶどうだけを使い、県内で発酵と容器詰めを行うことなどの生産基準を満たし、地理的表示「山梨」管理委員会の確認を受ける必要があります。生産基準は収穫時の最低果汁糖度も定めており、甲州は14.0度、ヴィティス・ヴィニフェラ種は18.0度、その他の品種は16.0度です。
市の単位の制度もあります。甲州市は原産地呼称ワイン認証制度を運用し、市内を土壌・地形・気候などから地区に分けています。前節までに触れた東雲地区や大和地区の区分は、この制度によるものです。
国際的な評価:OIV登録、KOJ、世界農業遺産
2010年、甲州は国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の品種リストに、日本固有の品種として初めて登録されました。山梨県は、これによりEUへ輸出する甲州のワインのラベルに品種名「Koshu」を表示できるようになったとしています。
登録の前年の2009年には、山梨県のワイン生産者15社と甲州市商工会、甲府商工会議所、山梨県ワイン酒造組合が「Koshu of Japan(KOJ)」を組織し、英国を中心に海外での紹介活動を行ってきました。
評価は産地の農法と景観にも及んでいます。峡東地域の「扇状地に適応した果樹農業システム」は2022年に国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定され、甲府盆地東部のブドウ畑の景観は、文化庁の日本遺産「葡萄畑が織りなす風景」として紹介されています。
記述式演習問題(設問・模範解答・採点基準)
【設問1】
甲府盆地で甲州が伝統的に棚仕立てで栽培されてきた理由を、気候と栽培史の両面から説明せよ。
【模範解答】
甲府盆地は国内では雨が少なく日照の多い地域だが、日本の気候は全体として降水量が多く、農林水産省は甲州式棚をその多雨に適応する技術と位置づけている。ブドウはもともと乾燥を好み、江戸時代に竹で組まれるようになった甲州式棚は、枝葉を頭上に広げて通風を確保した。棚は疎植・大木仕立てと組み合わされ、明治中期に針金が導入されると地形を選ばず組めるようになり、扇状地の傾斜地にも広がった。
【採点基準(配点:10点)】
・盆地の少雨・多照は国内での比較であり、日本の気候は全体として多雨であることの区別(3点)
・通風の確保と多雨への適応という棚の機能(4点)
・江戸時代の竹の棚から明治中期の針金への変化と、傾斜地への拡大(3点)
【設問2】
「日本ワイン」「甲州」「山梨(GI)」の三つが一本のラベルに並ぶとき、それぞれが示す内容を説明せよ。
【模範解答】
「日本ワイン」は、国産ぶどうのみを原料とし国内で製造した果実酒であることを示す(2018年10月30日から適用の国税庁の表示基準)。品種名「甲州」は、甲州を85%以上使用していることを示す。GI「山梨」は、山梨県産のぶどうだけを使い県内で発酵・容器詰めし、甲州では最低果汁糖度14.0度などの生産基準を満たし、管理委員会の確認を受けたことを示す。GIではなく表示基準上の地名として産地名を書く場合は、その範囲で収穫したぶどうを85%以上使い、その範囲で醸造したことが条件となる。
【採点基準(配点:10点)】
・日本ワインの定義と適用開始日(3点)
・品種表示の85%ルール(2点)
・GI山梨の生産基準と確認の手続き(3点)
・GIと表示基準上の地名表示の区別(2点)
盆地の気候と地形
- 山に囲まれた盆地:全国的に多照で、盆地の雨は国内では少ない
- 夏は高温になり、昼夜の寒暖差が大きい
- 河川が運んだ砂と礫が扇状地をつくり、水はけがよい
栽培上の課題
- 日本の気候は全体として降水量が多い
- ブドウはもともと乾燥を好み、通風の確保が課題になる
棚仕立てと畑の選択
- 甲州式棚と疎植・大木仕立てで通風を確保し、多雨に適応する
- 針金の導入で、棚が傾斜地にも広がる
- 扇状地の起伏と傾斜を使い分け、果樹ごとに適地を選ぶ
甲州のワインスタイル
- 大粒で糖度が上がりにくい果実
- 3MH前駆体を生かした柑橘の香り
- おりと触れさせるシュール・リー、果皮由来のわずかな渋み
※ 本記事の画像および図解・分析モデルはすべて当社独自AI(Maison Apéro Proprietary AI)によって生成・設計された知的財産です。第三者による無断転載・他社AIモデル等の学習利用・商業利用を固く禁じます(© Atlas Associates Inc. / Maison Apéro)。
情報源
- National Research Institute of Brewing (酒類総合研究所) — 「甲州」ブドウのルーツを解明(2013年11月8日)
- Goto-Yamamoto N., Sawler J., Myles S. (2015) Genetic Analysis of East Asian Grape Cultivars Suggests Hybridization with Wild Vitis. PLOS ONE 10(10): e0140841
- Genomic Characterization of the Japanese Indigenous Wine Grape Vitis sp. cv. Koshu. Frontiers in Plant Science (2020) 11:532211
- Goto-Yamamoto N. (2019) Japan Wine, its characteristics and research. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
- 甲州市 — 甲州ぶどうの歴史
- 甲州市 — 甲州市でしか味わえないお気に入りのぶどうを見つけてみよう(勝沼の地形・土壌・日照・寒暖差)
- 甲府地方気象台(気象庁) — 山梨県の気候
- 気象庁 — 甲府 観測史上1〜10位の値(年間を通じての値)
- 内閣官房 公開資料「7. 甲府盆地」(関東地方の地下水・地形と地質)
- 甲州市原産地呼称ワイン認証制度 — 甲州市のエリア特性
- 農林水産省 — 世界農業遺産 山梨県 峡東地域(峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム)
- 文化庁 日本遺産ポータルサイト — 葡萄畑が織りなす風景 -山梨県峡東地域-
- INAO — Muscadet Sèvre et Maine sur lie
- 山梨県ワイン酒造組合 — GI山梨 認定ワイン「甲州 シュールリー」
- 国税庁 — 「果実酒等の製法品質表示基準」について
- 国税庁 — 別紙1 地理的表示「山梨」生産基準
- 山梨県ワイン酒造組合 — 地理的表示『山梨』
- Value and protection of geographical indications by the Japanese Wine Law. BIO Web of Conferences (42nd World Congress of Vine and Wine, 2019)
- 山梨県 — 甲州がOIVを登録
- 甲州市商工会 — 甲州ワインEU輸出プロジェクト(Koshu of Japan)とは
