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キャノピーマネジメント:葉と光がブドウのポリフェノールを変える

新梢の配置と除葉は、果房に届く光と熱を決める。それによって青ピーマン香のもとになるIBMP、果皮のフラボノール、色づきが変わる。効果を左右するのは作業の時期と、どちらの面の葉を取るかである。

キャノピーマネジメントとは、芽かき・新梢の誘引・摘心(トリミング)・除葉などによって新梢と葉の量と配置を整え、葉と果房のまわりの光・温度・風通しを管理する栽培技術である。

学習テーマ:テロワールと気候

Maison Media Editorial · 公開日 · 更新日

針金に沿って仕立てたブドウ樹の緑の葉のあいだに下がる濃い青色の果房。右に木の支柱、下に黒い点滴灌水用のチューブが見える。
針金仕立てのブドウ樹で、葉の層の下に濃い色の果房が下がり、キャノピーのすき間から日の光が差し込んでいる。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

キャノピーとは何か、何を左右するか

ブドウ樹のキャノピー(樹冠・葉幕)とは、新梢と葉の全体を指す。光合成のための日光を受け止めるだけでなく、果房のまわりの微気候、つまり果房に届く光の量、果房の温まり方、雨や露のあとの乾きやすさも決めている。

栽培者がキャノピー内の微気候を変えるための手段には、芽かき、新梢の誘引、摘心、除葉、キャノピーの分割がある。本稿では、葉の壁から果粒までの光の道筋を、日陰、果皮のフラボノール、青ピーマン香の成分IBMP、日焼けの危険の順にたどる。

混み合ったキャノピーと内部の日陰

新梢が混み合うと、外側の葉が光の大半を受け止め、キャノピーの内部は深い日陰になる。こうした日陰のキャノピーで育った果実は、糖、アントシアニン、フェノール類が少なく、カリウムとリンゴ酸が多く、pHが高くなる傾向がある。混み合ったキャノピーは湿った状態が長く続くため、菌類による病害が起きやすい。

キャノピーマネジメントは葉の壁を薄く保つことを目指す。芽かきで余分な新梢を除き、誘引で残した新梢を薄い壁に並べ、摘心で壁からはみ出す新梢を切り、除葉で果房のまわりを開く。

針金の垣根に仕立てたブドウ樹のイラスト。主幹と水平のコルドン、誘引線の間に立てた新梢がつくる葉の壁、破線で示した摘心の高さとそれを越えて伸びる新梢、芽かきで新梢を除いた跡、左では露出し右では葉に隠れた緑色の果房を描く。

新梢を垂直に誘引した垣根仕立ての列の一部。左は果房帯の葉を取り除いた状態、右はまだ葉が果房を覆っている状態です。芽かき、新梢の誘引、摘心、除葉を組み合わせて葉の壁を薄く保ちます。形と色は説明のための表現です。

図の内容を文章・表で読む
  • 摘心 — 壁からはみ出す新梢を切り詰める
  • 新梢の誘引 — 新梢を誘引線の間に立て、薄い壁にそろえる
  • 除葉 — 果房のまわりの葉を取り、果房帯を開く
  • 芽かき — コルドン上の余分な新梢を除く

日光・UV-Bと果皮のフラボノール

果皮に当たる日光はフェノール類の組成を変えるが、すべての成分が同じように反応するわけではない。UV-B(紫外線B)は日光のうち波長280〜315 nmの部分である。もっともはっきり反応するのはケルセチン配糖体などのフラボノールで、Spaydらが2002年に報告したメルロの圃場試験では、日の当たる果房でフラボノールが多く、紫外線を遮るとその量が下がった。

赤い色素であるアントシアニンは別の動きを示した。同じ試験では、畝のうち午後の日が当たる側で露出した果房がもっとも高温になり、著者らはそのアントシアニンが少なかった主な原因を光ではなく温度に求めた。より一般には、フラボノールの合成は光に強く依存する一方、高温はアントシアニンの蓄積を減らしうるため、露出の効果は果実がどれだけ熱くなるかで変わる。

日陰の果房と日の当たる果房を比べる表:糖と色素、カリウムと pH、果皮のフラボノール、ヴェレゾン前後の IBMP、果粒の温度、病害

この記事が引く研究が、混み合ったキャノピーの内側の果実と、日に当たる果実について見いだしたことです。IBMP の行はカベルネ・フランの 1 つの研究、高温の行は温暖な産地のメルロの研究にもとづきます。

図の内容を文章・表で読む
図の内容(表)
日陰の果房日の当たる果房
糖・アントシアニン・フェノール混み合ったキャノピーの果実では少なくなりがち—
カリウム・リンゴ酸・pHカリウムとリンゴ酸が多く、pH が高い—
果皮のフラボノール少ないメルロで高く、紫外線を遮ると下がった
ヴェレゾン前の IBMP蓄積する日に当たったカベルネ・フランの果房では蓄積が 21〜44% 少なかった
ヴェレゾン後の IBMP減っていく同じ速さで減る;光は減少を速めない
果粒の温度—気温をかなり上回ることがある;熱い果粒はアントシアニンを失い、強い光と熱で日焼けが起きる
病害混み合ったキャノピーは湿った状態が長く続き、菌類の病害を助ける—

IBMP:光を当てる時期が決め手になる理由

3-イソブチル-2-メトキシピラジン(IBMP)は、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブランなどに見られる青ピーマンや青草の香りのもとになるメトキシピラジンである。果粒の中ではヴェレゾン(着色期)までに蓄積し、その後は減っていく。

Ryonaらは2008年、日の当たるカベルネ・フランの果房と日陰の果房でIBMPの推移を追った。日の当たる果房では、ヴェレゾンまでに蓄積したIBMPが21〜44%少なかったが、ヴェレゾン後の減少は光によって速まらなかった。つまり、光の当たり方が左右したのはIBMPの蓄積量であり、分解の速さではなかった。

したがって、IBMPを下げることが目的なら、光は結実からヴェレゾンまでの早い時期に当てる必要がある。ヴェレゾン後に葉を取っても、果実に光と熱が加わるだけで、IBMPの減少は早まらない。熟期の終わりに日光がピラジンを焼き飛ばす、という理解は正しくない。

時間の矢印に沿って4つの果房を描いたイラスト。結実後の小さな緑の果粒と、葉を取り除いた色付きの期間にあるヴェレゾン前の緑の果粒、ヴェレゾンで色づき始めた果房、葉の下にある収穫期の黒い果房。

結実(左)から収穫(右)までの果房。IBMPを下げるのは、結実からヴェレゾンまでに果房帯を開くこと。ヴェレゾン後のIBMPは露出の有無にかかわらず減り、光で減少は速まらない。形と色は説明のための表現です。

図の内容を文章・表で読む
  • 結実〜ヴェレゾン:ここで露出 — 日の当たるカベルネ・フランの果房は、日陰の果房よりIBMPの蓄積が21〜44%少なかった
  • ヴェレゾン — IBMPはこの前後で最大になり、その後減り始める
  • ヴェレゾン〜収穫 — 露出の有無によらずIBMPは減る。この時期に除葉しても減少は速まらない

温暖な産地での高温と日焼け

暑く日差しの強い産地では、果房を全面的に露出させると害になる。直射日光を受けた果粒は周囲の気温よりかなり高温になりうる。高温と強い日射が重なると果皮が褐変し、ひどい場合には組織が壊死する(Gambettaら、2021年)。高温になった果粒は光を十分に受けていてもアントシアニンを失う(Spaydら、2002年)。

そこで栽培者は、除葉を太陽の動きに合わせる。南北に走る畝では、キャノピーの西側が気温のもっとも高い午後の日差しを受ける。このため温暖な畑では、西側の葉を残し、主に朝日の当たる東側で除葉することが多い。果房帯にかける遮光ネットや、果実に吹き付けて日射を反射させるカオリン(粘土鉱物)の粒子膜も手段になり、生育期の早い時期から日に当たっていた果実は、夏の盛りに急に露出した果実より日差しに耐えやすい。

片手でブドウの葉をよけ、もう片方の手でセンサーとデジタル表示のついた携帯型の測定器を緑色の果房の横に持っている手元。
針金に沿って仕立てたブドウ樹の果房帯で作業する手。片手で緑色の果房から葉を持ち上げ、もう片方の手で携帯型の測定器を果房の横に構えている。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

仕立て方:VSPと分割型キャノピー

キャノピーの基本の形は、仕立て方で決まる。垂直新梢誘引(VSP)は、新梢を誘引線のあいだで上向きにそろえて幅の狭い垂直な葉の壁をつくり、その下側に果房帯を置く方式である。肥沃で樹勢の強い畑では、この壁が厚くなり、果房帯が日陰に入る。

樹勢の強い樹では、キャノピーの分割が選択肢になる。ジュネーブ・ダブル・カーテン(GDC)やリラ(竪琴形)などの仕立ては葉の壁を薄い2枚のカーテンに分け、光を受ける葉と果房の割合を大きくする。

グラスに表れるもの

それぞれの仕組みは別々の成分に働くため、キャノピーマネジメントの跡はワインのいくつもの側面に残る。IBMPの少ない果実からは、青ピーマン香の出やすい品種でもその香りが控えめなワインになる。日に当たった果皮はフラボノールを多く含み、高温を避けられた果実はアントシアニンをよく保つ。反対に、日焼けした果粒は褐変し傷んだ果皮を発酵槽に持ち込む。日陰のキャノピーの果実は、pHが高く、リンゴ酸が多く、色の薄い状態で収穫される傾向がある。

どれも最大化すればよい値ではない。適切なキャノピーは気候、畑の樹勢、品種によって変わる。曇りがちで冷涼な産地では光を多く、暑い産地では午後の熱から守り、IBMPが気になる品種ではどこでも時期を早める、というのが基本になる。

演習1:日陰、IBMP、除葉の時期

【設問】
カベルネ・フランの畑で果房帯が混み合って日陰になっており、ワインに強い青ピーマン香が出ている。IBMPとは何か、果房の日陰がIBMPにどう影響するか、IBMPを下げるには除葉をいつ行うべきかを説明しなさい。

【模範解答】
IBMP(3-イソブチル-2-メトキシピラジン)は青ピーマン香のもとになるメトキシピラジンで、果粒の中でヴェレゾンまでに蓄積し、その後減少する。Ryonaら(2008年)は、日の当たるカベルネ・フランの果房では、ヴェレゾンまでに蓄積するIBMPが日陰の果房より21〜44%少ないこと、一方でヴェレゾン後の減少は光で速まらないことを示した。したがって果房帯の除葉は結実からヴェレゾンまでのあいだに行うべきである。ヴェレゾン後の除葉はIBMPを下げず、果実を高温にさらすおそれがある。キャノピーを開くと果房帯が早く乾くため、菌類による病害の危険も下がる。

【採点基準(自己採点用・10点)】
・IBMPが青ピーマン香のもとであり、ヴェレゾンまでに蓄積してその後減ることを述べている(3点)
・露出は蓄積を減らすが、ヴェレゾン後の分解は速めないことを根拠とともに説明している(4点)
・早い時期の除葉を勧め、遅い除葉が役に立たない理由を説明している(3点)

演習2:暑い産地での除葉

【設問】
暑く日差しの強い産地の栽培者が、南北に走る畝の両側で果房のまわりの葉をすべて取り除こうとしている。その危険を説明し、よりよい方法を提案しなさい。

【模範解答】
暑い気候で果房を全面的に露出させると、果実が過熱するおそれがある。直射日光を受けた果粒は気温よりかなり高温になりえ、高温と強い日射が重なると果皮の褐変や、ひどい場合には壊死が起こる(Gambettaら、2021年)。また果粒が高温になると、光が十分にあってもアントシアニンが減る(Spaydら、2002年)ため、果房帯をすべて露出させると色が増えるどころか失われかねない。よりよい方法は、主に朝日の当たる東側で除葉し、午後の日差しを受ける西側の葉を残すこと、除葉は早い時期に行い、果実を早くから日差しに慣らすこと、必要に応じて遮光ネットやカオリンの粒子膜を使うことである。朝日の側で早めに除葉すれば、ヴェレゾン前の果房に光が当たるので、IBMPの蓄積を抑えることにもつながる。

【採点基準(自己採点用・10点)】
・日焼けと高温によるアントシアニンの減少を説明している(4点)
・朝日の側での除葉と早い時期の実施を提案している(3点)
・遮光ネットやカオリンなど、ほかの対策を少なくとも1つ挙げている(3点)

キャノピーから果粒まで

手順 1

キャノピーの作業

  • 芽かきと誘引で新梢を薄い壁に並べる
  • 結実からヴェレゾンまでに果房帯を除葉する
  • 暑い畑では午後の日が当たる側の葉を残す
手順 2

果房帯の微気候

  • キャノピー内部の日陰が減り、乾きが早くなる
  • ヴェレゾン前の果房に光と紫外線が多く当たる
  • 午後の果房の温度が上がりにくい
手順 3

果粒の成分

  • 日陰に伴う高いpHとリンゴ酸の多さが抑えられる
  • IBMPの蓄積が減り、果皮のフラボノールが増える
  • アントシアニンが高温による減少から守られる
キャノピーの管理が果房帯の微気候を変え、それを通じて果粒の成分を変える流れ

よくある質問

キャノピーマネジメントはブドウの何を変えるのですか。

果房が受ける光と温度を変えます。混み合って日陰になったキャノピーの果実は、糖と色が少なく、pHが高く、カリウムとリンゴ酸が多くなる傾向があります(Smart、1985年)。日に当たった果皮はフラボノールを多く蓄え(Spaydら、2002年)、ヴェレゾン前に光を当てると青ピーマン香の成分IBMPの蓄積が抑えられます(Ryonaら、2008年)。

青ピーマン香を減らすには、いつ除葉すればよいですか。

ヴェレゾンの前です。カベルネ・フランでは、日の当たる果房はヴェレゾンまでに蓄積するIBMPが日陰の果房より21〜44%少なく、ヴェレゾン後のIBMPの減少は光によって速まりませんでした(Ryonaら、2008年)。そのためヴェレゾン後の除葉はIBMPにはほとんど効きません。

暑い産地では、なぜ午後の日が当たる側の葉を残すのですか。

午後の直射日光を受けた果粒は気温よりかなり高温になり、日焼けやアントシアニンの減少を招くからです(Spaydら、2002年/Gambettaら、2021年)。南北に走る畝では西側が午後の日差しを受けるため、西側の葉を残し、主に朝日の当たる東側で除葉することが多くなります。遮光ネットやカオリンの粒子膜も選択肢です。

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