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全房発酵か除梗か:果梗が赤ワインにもたらす変化

房ごと仕込むと無傷の果粒は内側から発酵し、果梗はカリウムやタンニンを加え、緑のままなら草のような香りのリスクも生じます。全房発酵と除梗の違いを、研究と業界機関の資料から整理します。

全房発酵とは、ブドウを除梗も破砕もせず、果梗のついた房のまま発酵槽に入れて発酵させる赤ワインの醸造法である。

学習テーマ:醸造

Maison Media Editorial · 公開日 · 更新日

石造りの醸造所で、緑の果梗と数枚の葉がついた黒ブドウの房を、大きな開放型の木製槽に入れる造り手
開放型の木製槽に入れられる全房。この写真の果梗はまだ緑で、葉も少し混じっています。木質化した果梗が好まれる理由は第5節で説明します。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

除梗か、全房か、その配合か

赤ワインを発酵させる前に、造り手は果梗をどう扱うかを決めます。除梗機(デステマー)は果粒を果梗から外し、果粒はその後破砕されることもあります。全房発酵では、除梗せずに無傷の房を果梗ごと発酵槽に入れます。

選択は全か無かではありません。この技法が最もよく使われるのはピノ・ノワールとシラーズで、ピノ・ノワールでは全房の比率が100%に達することもありますが、特にシラーズでは15〜20%がより一般的です。残りのブドウは通常どおり除梗します。

房ごと仕込むと、二つのことが同時に変わります。一部の果粒が無傷のまま内側から発酵できること、そして果梗そのものが成分をワインへ放出することです。以下の節で一つずつ見ていきます。

一つの槽で進む二つの発酵

その極端な形がマセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬)です。これは、発酵の第一段階を完全な嫌気条件で行う全房の技法です。100%無傷の房を、遊離果汁のない状態で二酸化炭素を満たした密閉容器に入れ、果粒の中の酵素が酵母なしで働きます。

通常の全房発酵槽はこの条件を満たしません。割れた果粒からは果汁が出て、酵母がそれをふつうに発酵させます。一方、無傷のまま残った果粒は、その発酵が出す二酸化炭素に囲まれて、果皮の内側で発酵できます。二つの過程は並行して進み、後者の割合は、どれだけの果実が無傷で残るかで決まります。

切り開いた三つの発酵容器のイラスト。除梗して破砕した果粒が果帽となって果汁の上に浮く開放槽、果梗つきの房が少しの果汁の上に積まれた開放槽、遊離果汁がなく房と二酸化炭素で満たされた密閉タンク

三つの容器を切り開いて描いた図です。全房発酵槽は両極端の中間にあります。割れた果粒の果汁を酵母が発酵させ、無傷の果粒は内側から発酵します。形・色・果汁の量は説明のための表現です。

図の内容を文章・表で読む
  • 除梗 — 除梗機が果粒を果梗から外す。果粒はその後破砕されることもある
  • 全房 — 無傷の房を果梗ごと槽に入れる
  • 完全なマセラシオン・カルボニック — 100%無傷の房を、遊離果汁のない状態で二酸化炭素を満たした密閉容器に入れる
  • 果汁と果皮 — 果皮と接したまま、果汁を酵母が発酵させる
  • 二つの発酵 — 割れた果粒の果汁は酵母が発酵させ、無傷の果粒は内側から発酵する
  • 第一段階は酵母なし — 果粒の中の酵素が働く

無傷の果粒の中で起こること

二酸化炭素の多い環境に置かれたブドウの細胞は、呼吸から細胞内発酵と呼ばれる嫌気的な代謝へ切り替わります。その働きは、エタノールの生成、リンゴ酸の分解、ペクチン分解とタンパク質分解の変化、揮発性化合物の生成、果皮から果肉へのフェノール化合物の拡散です。

量はわずかです。こうしてできるアルコールは約1.5〜2%、リンゴ酸の減少は約半分で、少量の糖とリンゴ酸がエタノールに変わり、多くの香気成分が微量にできます。これらは完全なマセラシオン・カルボニックの数字で、全房発酵槽でこの状態にあるのは無傷の果実の部分だけです。

果梗についたブドウの果粒を拡大し、半分に切ったイラスト。濃い色の果皮、淡い果肉、種子が見え、果皮から果肉へ向かう矢印と、周りの二酸化炭素の泡が描かれている

二酸化炭素の多い環境に置かれた無傷の果粒を拡大して切り開き、果皮・果肉・種子を描いた図です。図に示した数値は完全なマセラシオン・カルボニックの場合のものです。全房発酵槽でこの状態にあるのは無傷の果粒だけです。形と色は説明のための表現です。

図の内容を文章・表で読む
  • 果梗 — 主なミネラルはカリウム。メトキシピラジンは果粒より多い
  • 果皮 — フェノール類が果皮から果肉へ拡散する
  • 周りは二酸化炭素 — 細胞が呼吸から細胞内発酵へ切り替わる
  • 果肉:糖 — アルコール約1.5〜2%が酵母なしでできる
  • 果肉:リンゴ酸 — 約半分が分解される

果梗が放出するもの:カリウム、pH、タンニン、色

カリウムは果梗の主要なミネラル成分で、果梗を加えるとワインのカリウム、リン、カルシウムが増えます。このデータは、次の仮説を支えます。カリウムが酒石酸と結びついて酒石酸水素カリウムとして沈殿し、残る酒石酸が減ることでpHが上がり、滴定酸度が下がることがある、というものです。ピノ・ノワールの試験では、果梗を加えたワインのpHは除梗したワインより有意に高く、著者らはこれを、果梗からカリウムが抽出されたためと考えられるとしています。

接触時間も影響するようです。公表されたデータでは、果梗との接触7日後にはpHの有意な上昇はなく、21日後には有意な上昇がみられました。

果梗はフェノール類も変えます。全房の比率を高めるとタンニンと単量体フェノールが有意に増え、アントシアニンは減ったと報告されています。色への影響ははっきりしません。造り手の多くは色が薄くなると見ていますが、色の濃さが増したという公表データもあります。ピノ・ノワールの試験では、全房の比率が高い区でアルコールが低く、果梗から出る水分と、糖からアルコールへの変換が少ないことが理由として考えられています。

果梗や全房によってカリウム、pH、タンニン、アントシアニン、メトキシピラジン、その他の香気成分、アルコールがどう変わったかを示す表

除梗したワインと比べた変化の方向です。データの多くはピノ・ノワールのもので、一定の量ではなく傾向を示します。

図の内容を文章・表で読む
図の内容(表)
果梗・全房ありの場合研究の報告
カリウム増える果梗の主要なミネラル成分
pH上がる酒石の沈殿によるとの仮説。接触が長いほど明確
タンニン・単量体フェノール増える全房の比率とともに増加
アントシアニン減る色への影響ははっきりせず、報告が分かれる
メトキシピラジン(IBMP、IPMP)増える果粒より果梗に多く、ブドウの成熟とともに減る
オイゲノール・桂皮酸エチル・フェノール増えるスパイス、木、薬品を思わせる香りと関係する化合物群
アルコール全房の比率が高い区で低い果梗から出る水分の可能性

緑の果梗と木質化した果梗

全房発酵の最大のリスクは、果梗から抽出される草や青い香りと風味、そして過度に収斂性の強いタンニンです。最良の結果が得られるのは、果梗がよく木質化した、つまり緑ではなく木のようになった房です。

理由の一部は化学にあります。房の部位のうち、メトキシピラジンの割合が最も高いのは果梗です。草や土を思わせる香りのIBMPと、IPMPは果粒より果梗に多く含まれ、果梗中の量はブドウの成熟とともに減ります。IBMPは圧搾やマセラシオンの間に抽出されやすい成分でもあります(Blackfordら)。

だからこそ、果粒の熟度だけでなく果梗の状態が、全房にするかどうかの判断に入ってきます。

木製の槽の中の黒ブドウと、茶色く木のような果梗の接写。中央に紫色の果汁と小さな泡がある
木製の槽の中の黒ブドウと果梗。冒頭の写真の緑の果梗と違い、ここでは果梗が茶色く木のようになっており、果粒の間に小さな泡を含む果汁がたまっています。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

一つの試験を詳しく:全房30%、60%、100%

Wimalasiriらは、5種類のピノ・ノワールを小規模に試験醸造しました。除梗したもの、除梗した果実に果梗を100%戻したもの、そして全房30%、60%、100%のものです。

青さや植物、スパイス、木、薬品を思わせる香りに関わる化合物(IBMP、IPMP、オイゲノール、桂皮酸エチル、フェノール)は、全房60%と100%のワイン、そして果梗を戻した除梗ワインで有意に増えました。最後のワインには無傷の房がないので、変化の一部は細胞内発酵ではなく果梗そのものによるものです。

一品種の一つの試験から法則は導けません。それでも、造り手が全房の比率をオンとオフのスイッチではなく、調整するダイヤルとして扱える理由はわかります。

グラスの中:手がかりであって証拠ではない

テイスティングで探せるものは、ここまでの化学から導かれます。タンニンが多く、引き締まった、ときに収斂性のある質感は果梗を示すことがあり、草や青い香りは、果梗が十分に木質化していなかったことを示唆します。ピノ・ノワールの試験で果梗とともに増えた化合物には、著者らがスパイスや木の香りと結びつけるものも含まれており、そうした香りが伴うこともあります。

色は当てになりません。報告されているデータでは全房が多いほどアントシアニンは減りましたが、第4節で見たとおり、色そのものへの影響ははっきりしません。これらのサインは生産者自身の資料と照らし合わせる手がかりとして扱い、証拠とはみなさないでください。

演習:設問・模範解答・採点基準

以下の2問はMaisonが自習用に作ったもので、いずれの試験機関の公式問題でもありません。

【設問1】
全房発酵の際、無傷の果粒の中で何が起こるかを説明し、完全なマセラシオン・カルボニックより効果が小さくなる理由を述べなさい。

【模範解答】
二酸化炭素に囲まれた無傷の果粒は、呼吸から細胞内発酵へ切り替わる。果粒の中の酵素が酵母なしで、少量の糖をエタノールに変え(完全なマセラシオン・カルボニックで約1.5〜2%)、リンゴ酸を分解し(約半分)、揮発性化合物をつくり、フェノール化合物を果皮から果肉へ拡散させる。完全なマセラシオン・カルボニックには、100%無傷の房、遊離果汁がないこと、二酸化炭素を満たした密閉容器が必要である。全房発酵槽では一部の果粒が割れ、その果汁は酵母が発酵させるため、細胞内発酵が起こるのは無傷の果実の部分だけである。

【採点基準(10点)】
・酵母を介さない、果粒内の酵素による嫌気的代謝(3点)
・生成物:少量のエタノール、リンゴ酸の減少、揮発性化合物、フェノールの拡散(4点)
・完全なマセラシオン・カルボニックの条件と全房発酵槽との比較(3点)

【設問2】
ある造り手が、緑の果梗がついた房をピノ・ノワールの発酵に加えた。化学的な変化を二つと官能上のリスクを一つ予測し、それぞれ説明しなさい。

【模範解答】
第一に、果梗から抽出されたカリウムが酒石酸と結びついて酒石酸水素カリウムとして沈殿しうるため、pHが上がり、酸度が下がることがある。公表されたデータでは、この上昇は接触21日後に有意になったが、7日後には有意でなかった。第二に、タンニンと単量体フェノールが増え、アントシアニンが減る。官能上のリスクは草や青い風味と強い収斂性である。果梗はIBMPやIPMPなどのメトキシピラジンを果粒より多く含み、その量はブドウの成熟とともに減る。緑ではなくよく木質化した果梗で最良の結果が得られる。

【採点基準(10点)】
・カリウム、酒石の沈殿、pHと酸度の変化の方向(4点)
・タンニンの増加とアントシアニンの減少(3点)
・メトキシピラジンと木質化による、緑の果梗のリスクの説明(3点)

醸造の判断からグラスまで

手順 1

醸造の判断

  • 無傷の房を、できれば木質化した果梗とともに槽へ入れる
手順 2

発酵槽の中

  • 無傷の果粒は内側から発酵し、果梗はカリウムやタンニン、メトキシピラジンを放出する
手順 3

グラスの中

  • pHが高く、タンニンが多く、緑の果梗なら草や青い香りのリスク
全房にするという選択が、発酵槽を経て、テイスティングで気づける特徴につながる流れ

よくある質問

全房発酵とマセラシオン・カルボニックはどう違いますか?

全房発酵は、無傷の房を通常の発酵槽に入れる方法です。完全なマセラシオン・カルボニックでは100%無傷の房を、遊離果汁のない状態で二酸化炭素を満たした密閉容器に入れ、発酵の第一段階を完全な嫌気条件で行います。通常の全房発酵槽では、割れた果粒の果汁を酵母が発酵させる一方で、無傷の果粒が内側から発酵できます。

なぜ果梗は木質化している必要があるのですか?

全房発酵の最大のリスクは、果梗から抽出される草や青い香りと、過度に収斂性の強いタンニンで、よく木質化した果梗で最良の結果が得られます。果梗はメトキシピラジン(IBMP、IPMP)を果粒より多く含み、その量はブドウの成熟とともに減ります。

果梗はワインのpHを変えますか?

上げる方向に働きます。カリウムは果梗の主要なミネラル成分で、酒石酸と結びついて酒石酸水素カリウムとして沈殿すると、pHが上がり、滴定酸度が下がることがあります。ピノ・ノワールの試験では果梗を加えたワインのpHが除梗のワインより高く、公表されたデータでは、果梗との接触7日後には有意な上昇がなく、21日後には有意な上昇がみられました。

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