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ヴォージュ山脈の雨陰:アルザスはどれほど乾燥しているのか、その理由は

ヴォージュ山脈は西風の雨を西斜面で受け止め、東のアルザスのブドウ畑に雨陰をつくります。その乾燥の程度をメテオ・フランスの平年値で確かめ、足元の地溝が生んだ土壌のモザイクを読み解きます。

ヴォージュ山脈の雨陰とは、アルザス側にあたる山脈の東の乾いた側のことで、西風が西斜面に雨を落としたあと乾いて東の山麓のブドウ畑へ下るため、畑の年間降水量は 500〜600 mm にとどまります。

学習テーマ:テロワールと気候

Maison Media Editorial · 公開日 · 更新日

秋に黄葉した段々のブドウ畑が斜面に広がり、その下に木骨造りの家々と教会の塔のある村、背後に森に覆われた山の稜線が見える風景
秋色に染まる段々のブドウ畑と、森に覆われた稜線のふもとにある教会の塔のある村。右手には平野が開けています。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

フランスの地図。ピンがアルザス(Alsace)の位置を示すアルザス(Alsace)とその周辺の地図。ピンがアルザスの位置を示す
アルザス(Alsace) · フランス地図:Maison Apéro(Natural Earth のデータに基づく。パブリックドメイン)

ヴォージュ山脈が雨を遮るしくみ

アルザスのブドウ畑は、ヴォージュ山脈の東の山麓に沿って、山とライン平野のあいだに広がっています。卓越風は西から吹き、海洋の空気を運んできます。この西風はヴォージュ山脈の西斜面に雨を落とし、乾いた風となってブドウ畑へ下ります。山脈がアルザスを海洋の影響から守っているのです。

気象学ではこれを雨陰(レインシャドウ)と呼びます。雨陰とは、山の障壁の風下側で降水が少なくなる地域で、下降する空気が暖まり雲が消えていく場所のことです。アルザスでは障壁がヴォージュ山脈、風下側がブドウの育つ東側にあたります。

ブドウ畑の気候は、日照に恵まれ、温暖で乾燥した半大陸性気候で、年間降水量は 500〜600 mm と、フランスで最も少ない部類です(CIVA)。下のブロック図は、西斜面からブドウ畑へ向かう空気の流れと、その下にある地溝の構造を示します。

ヴォージュ山脈がつくるアルザスの雨陰:卓越する西風、西斜面に雨(ヴォージュ山脈)、雨陰(レインシャドウ)、アルザスのブドウ畑、ヴォージュ山脈、シュヴァルツヴァルト(黒い森)、上部ライン地溝、ヴォージュ断層、ライン断層、アルザスのブドウ畑:日照に恵まれ、温暖で乾燥した半大陸性気候

縮尺のない模式的なブロックダイアグラムです。上面が地形、手前の面が断面で、断面の色は土と岩の種類を表します。

図の内容を文章・表で読む
  • 卓越する西風はヴォージュ山脈の西斜面に雨を落とし、乾いてブドウ畑へ下ります。ヴォージュ山脈はアルザスを海洋の影響から守っています。
  • アルザスのブドウ畑は、日照に恵まれ温暖で乾燥した半大陸性気候で、降水量はフランスで最も少ない部類です。
  • 雨陰とは、山の障壁の風下側で降水が少なくなる地域のことで、下降する空気が暖まり雲が消えることで生じます。
  • ライン地溝はリフト(地溝帯)で、中央が沈み、西のヴォージュ山脈と東のシュヴァルツヴァルトの両肩が相対的に持ち上がっています。上部ライン地溝とアルザス平野は断層に縁取られています。
  • ブドウ畑は、西のヴォージュ断層と東のライン断層にはさまれた断裂帯、ヴォージュ山麓の丘に広がり、ヴォージュ山脈とライン平野の間にあります。

どれほど乾燥しているのか:コルマール・ストラスブール・パリの比較

形容詞よりも確かな物差しが平年値です。メテオ・フランス(フランス気象局)は観測所ごとに 30 年平均を公表しています。1991〜2020 年の年降水量の平年値は、Colmar-Meyenheim(コルマール)観測所で 595.0 mm、Strasbourg-Entzheim(ストラスブール)観測所で 635.7 mm、Paris-Montsouris(パリ)観測所で 634.3 mm です。

3 つのうち最も少ないのは Colmar-Meyenheim で、CIVA がブドウ畑について示す 500〜600 mm の範囲に収まります。ただし、パリとの差は 39.3 mm で、パリの年降水量の約 6% にすぎません。「アルザスの降水量はパリの半分以下」という説明を見かけることがありますが、この平年値とは合いません。Strasbourg-Entzheim はパリをわずかに上回るほどです。

平年値は雨量計を置いた一地点の値で、周りのすべての斜面を表すわけではありません。ここでの数値は地域のおおよその目安として読むのが適切です。

年降水量の棒グラフ。CIVA によるアルザスのブドウ畑の範囲 500〜600 mm、Colmar-Meyenheim 595.0 mm、Strasbourg-Entzheim 635.7 mm、Paris-Montsouris 634.3 mm

メテオ・フランスによる 3 観測所の 1991〜2020 年平年値と、アルザスワイン委員会(CIVA)がブドウ畑について示す範囲。最も少ないのは Colmar-Meyenheim ですが、Paris-Montsouris との差は 39.3 mm で、半分にはほど遠い値です。

図の内容を文章・表で読む

年降水量(mm)

  • アルザスのブドウ畑(CIVA の範囲): 500〜600 mm
  • Colmar-Meyenheim: 595 mm
  • Strasbourg-Entzheim: 635.7 mm
  • Paris-Montsouris: 634.3 mm

差が生まれる季節:寒い半年

月ごとの平年値を見ると、コルマールがいつ乾いているかがわかります。11 月から 4 月までは、Colmar-Meyenheim の降水量がどの月も Paris-Montsouris を下回り、5 月から 10 月まではどの月も上回ります。月の値を合計すると、11〜4 月はコルマール 227.3 mm に対しパリ 296.7 mm、5〜10 月はコルマール 367.7 mm に対しパリ 337.6 mm です。

最も少ない月は両地点とも 2 月(コルマール 30.6 mm、パリ 41.8 mm)、最も多い月は 5 月(69.8 mm と 69.0 mm)です。つまり、コルマールの年降水量が少ないのは寒い半年の分であり、雨の多い 5〜10 月がその差の一部を埋めています。

これは成熟についての説明を読むときに大切です。降水量だけでは、コルマールの秋がパリより乾いているとはいえません。9 月と 10 月の平年値は、コルマールが 51.3 mm と 56.8 mm、パリが 44.7 mm と 55.2 mm です。降水量の多少は、それだけでは日照・湿度・病害の起こりやすさを示さず、それぞれに別の観測が必要です。

Colmar-Meyenheim と Paris-Montsouris の降水量を、11〜4 月、5〜10 月、最も少ない月と最も多い月で比べた表

メテオ・フランスの 1991〜2020 年の月別平年値を合計したもの。11 月から 4 月はどの月もコルマールがパリより少なく、5 月から 10 月はどの月も多くなります。

図の内容を文章・表で読む
図の内容(表)
Colmar-MeyenheimParis-Montsouris
11〜4 月227.3 mm296.7 mm
5〜10 月367.7 mm337.6 mm
最も少ない月2 月、30.6 mm2 月、41.8 mm
最も多い月5 月、69.8 mm5 月、69.0 mm

ブドウ畑の下にある地溝

雨陰をつくる起伏は、地溝(リフト)の縁でもあります。上部ライン地溝では中央部が沈んでライン平野となり、その両肩にあたる西のヴォージュ山脈と東のシュヴァルツヴァルト(黒い森)が相対的に高く残っています(Planet-Terre、リヨン高等師範学校)。ブドウ畑が広がるのはヴォージュ山麓の丘で、西のヴォージュ断層と東のライン断層にはさまれた断裂帯です。

これが土壌を形づくりました。約 1 億 5,000 万年前、現在のライン地溝にあたる場所は海に覆われ、砂岩・石灰岩・泥灰岩などの堆積岩が花崗岩の基盤の上に積もりました。アルザス側では、ヴォージュ山脈(花崗岩と砂岩、ところにより片岩)、土壌がきわめて多様なヴォージュ山麓の丘、ライン川の沖積平野(泥灰岩と沖積層)という 3 つの単位が目立ちます。さらにサヴェルヌ、リボーヴィレ、ルファック=ゲブヴィレール、タンの 4 つの断裂帯が、ブドウ栽培地域を細かく分けています。

その結果がモザイクです。ワイン村の多くは 4〜5 種類の異なる地層の上にあり、しばしばごく小さな区画が隣り合っています。ブドウ畑の面積は約 15,500 ha で、アルザスワインの多様性の大部分は、この土壌のパッチワークから生まれています(CIVA)。

大きな彫刻入りの木樽が並ぶ石造りのアーチ天井のセラーと、樽の上に置かれた三つの岩石標本、白ワインのグラス、金属のひしゃく
大きな彫刻入りの樽が並ぶアーチ天井のセラー。手前の樽の上には、木の台に載った三つの岩石標本、白ワインのグラス、金属のひしゃく、コルクが置かれています。

画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original

2 つのグラン・クリュ、2 つの岩:ブラントとランゲン

岩・向き・標高は、一つの畑の中で組み合わさります。テュルクアイムのブラントは花崗岩の上にあり、石英・長石・雲母からなるこの岩は砂質で粗い土壌をつくります。畑は南南東を向き、標高 380 m まで上ります。この下層土は根の周りを温め、良好な成熟とリンゴ酸の分解を促します(CIVA)。

タンとヴュー=タンにまたがるランゲンは、火山性と堆積性の岩からなる南向きの急斜面です。2 つの畑は前節のモザイクをよく表しています。同じ雨陰の気候のなかで、テュルクアイムには花崗岩、タンには火山性・堆積性の岩があります。

演習 1:数字で見る雨陰

【設問】
ヴォージュ山脈がアルザスのブドウ畑に雨陰をつくるしくみを説明し、1991〜2020 年のメテオ・フランスの平年値を使って「アルザスの年降水量はパリの半分以下」という説明を評価せよ。

【模範解答】
卓越する西風が海洋の空気をヴォージュ山脈へ運ぶ。風は西斜面に雨を落とし、乾いて暖まりながら東の山麓のブドウ畑へ下る。そこは障壁の風下側で降水が少ない地域である。ブドウ畑の年降水量は 500〜600 mm である(CIVA)。平年値は Colmar-Meyenheim が 595.0 mm、Paris-Montsouris が 634.3 mm で、差は 39.3 mm、約 6% である。したがってこの説明は誤りで、コルマールはパリより乾燥しているが半分ではない。月別の平年値では、差は 11 月から 4 月に生じている。

【採点基準(10 点)】
・西風、西斜面での降雨、東へ下る乾いた空気(3 点)
・Colmar-Meyenheim と Paris-Montsouris の 1991〜2020 年平年値の正しい使用(4 点)
・説明が誤りであるという根拠のある結論と、差が寒い半年にあることの指摘(3 点)

演習 2:土壌のモザイクを読む

【設問】
上部ライン地溝がアルザスのブドウ畑の土壌のモザイクをどのように生んだかを述べ、グラン・クリュのブラントとランゲンの岩を対比せよ。

【模範解答】
ライン平野は、隆起した両肩(ヴォージュ山脈とシュヴァルツヴァルト)をもつ地溝の沈んだ中央部である。ブドウ畑はヴォージュ断層とライン断層にはさまれた断裂帯であるヴォージュ山麓の丘にあり、花崗岩の基盤の上に積もった堆積岩(砂岩・石灰岩・泥灰岩)が断層で区切られている。4 つの断裂帯がさらに地域を分け、多くの村は 4〜5 種類の地層の上にある。テュルクアイムのブラントは石英・長石・雲母からなる花崗岩で砂質の粗い土壌をつくり、南南東向きで標高 380 m に達する。タンとヴュー=タンのランゲンは、火山性と堆積性の岩からなる南向きの急斜面である。

【採点基準(10 点)】
・地溝:沈んだ平野、隆起したヴォージュ山脈とシュヴァルツヴァルト、両側の断層(4 点)
・モザイク:花崗岩を覆う堆積岩、断裂帯、村ごとに 4〜5 種類の地層(3 点)
・ブラントとランゲンの正確な対比(岩・向き)(3 点)

雨陰の因果ダイアグラム

手順 1

風と地形

  • 卓越する西風が海洋の空気を運ぶ
  • ヴォージュ山脈がその行く手に立つ
手順 2

雨陰

  • 西斜面に雨が落ちる
  • 乾いて暖まった空気が東の山麓へ下る
手順 3

ブドウ畑

  • Colmar-Meyenheim の年降水量 595.0 mm(1991〜2020 年平年値)
  • 断裂帯の土壌は区画ごとに変わる
西風と山の障壁から、雨陰、実測の降水量、ブドウ畑の土壌へと至る流れ

よくある質問

アルザスはなぜ乾燥しているのですか?

ヴォージュ山脈が卓越する西風の行く手に立っているからです。西風は西斜面に雨を落とし、乾いた風となって東の山麓のブドウ畑へ下ります。ブドウ畑の年降水量は 500〜600 mm で、フランスで最も少ない部類です(CIVA)。

アルザスの降水量は本当にパリの半分なのですか?

いいえ。メテオ・フランスの 1991〜2020 年の平年値では、年降水量は Colmar-Meyenheim が 595.0 mm、Paris-Montsouris が 634.3 mm です。コルマールのほうが約 6% 少なく、その差は 11 月から 4 月に生じています。

アルザスのブドウ畑にはどんな土壌がありますか?

モザイク状です。ブドウ畑は上部ライン地溝の縁の断裂帯にあり、花崗岩・片岩・砂岩・石灰岩・粘土・泥灰岩が隣り合って現れます。多くの村は 4〜5 種類の地層の上にあり、グラン・クリュのブラントは花崗岩、ランゲンは火山性・堆積性の岩です。

あわせて読む:雨陰とは何ですか。(山脈と雨陰を比べる:カスケード山脈からアルプスまで)

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