ティラージュと瓶内での二次発酵
トラディショナル方式では、泡のないベースワインを、瓶の中での二度目のアルコール発酵によって発泡性のワインに変えます。糖と酵母からなるリキュール・ド・ティラージュを加えて瓶を密閉すると、酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に変えます。瓶は閉じているため、二酸化炭素は逃げ場がなく、ワインに溶け込みます。
EU の規則は、「トラディショナル方式」という表示を、瓶内の二次アルコール発酵で発泡性にし、キュヴェを構成した時点から同じ事業者のもとで少なくとも9か月間、途切れることなく澱と接触させ、デゴルジュマン(澱抜き)で澱から分離したワインに限っています。また EU の規則では、高品質スパークリングワインは、密閉容器内・20 °Cで3.5 bar以上の過剰圧を持たなければなりません。
左から右へ、トラディショナル方式の瓶がティラージュからドサージュまでにたどる工程と、澱の中の酵母の拡大です。9か月という最低期間は「トラディショナル方式」の表示に関する EU の条件で、原産地呼称はより長い期間を求めることがあります。瓶・動瓶台・細胞の大きさは実際の比率ではなく、形と色は説明のための表現です。
図の内容を文章・表で読む
- ティラージュと二次発酵 — 糖と酵母を加えて瓶を密閉する。二酸化炭素は逃げずにワインに溶ける
- 澱とともに熟成 — 途切れることなく澱と接触させる。EU の「トラディショナル方式」は9か月以上
- ルミュアージュ(動瓶) — 瓶を少しずつ回し、傾けて、沈殿物を瓶口へ滑り落とす
- 自己消化(拡大) — 死んだ酵母が自らの酵素でゆっくり分解され、ペプチド、アミノ酸、マンノプロテインがワインへ移る
- デゴルジュマン(澱抜き) — 瓶口に集めた澱を取り除く。EU の規則が澱から分離する方法として挙げる工程
- ドサージュ — 少量のリキュールで最終的な甘さを決める。ブリュット・ナチュールは3 g/L未満
酵母の死と自己消化(オートリシス)
糖を使い切ると、酵母は発酵を止めて澱として沈み、やがて死んでいきます。そこから自己消化が始まります。死んだ細胞の中にあるプロテアーゼやグルカナーゼなどの酵素が、細胞のタンパク質や細胞壁などを分解し、その分解産物がワインへ移っていきます。
ワインの中では、この過程はゆっくり進みます。低い pH、アルコール、冷涼なセラーの温度が酵素の働きを抑えるため、自己消化の効果は数日ではなく、澱とともに過ごす数か月から数年をかけて積み重なります。トラディショナル方式のワインにとって、澱とともに過ごす時間の長さがスタイルを大きく左右するのはこのためです。
自己消化が放出するもの:泡、口当たり、香り
細胞壁の分解からは多糖類、とりわけマンノプロテインが放出されます。研究では、これらの分子は泡の安定性やまろやかな口当たりと関連づけられており、スパークリングワインで澱との熟成が重視される理由の一つになっています。
タンパク質の分解からはペプチドやアミノ酸が生じ、核酸の分解産物や脂質も放出されます。核酸由来のヌクレオチドは風味に影響する可能性があり、脂質は泡への影響が調べられていますが、結果は一様ではありません。放出された化合物の一部は香りの前駆体になりえます。長く澱とともに熟成したワインに語られるトースト、ブリオッシュ、ナッツのような香りはこうした変化と結びつけられていますが、化学的な経路はまだ研究の途上にあり、一つの反応だけで説明できるものではありません。
死んだ酵母の細胞が分解されるときに放出される物質群と、研究でそれらと関連づけられているワインの性質を定性的にまとめた表です。
図の内容を文章・表で読む
| ワインへ放出されるもの | 研究で関連づけられている性質 | |
|---|---|---|
| タンパク質 | ペプチドとアミノ酸 | 香りの前駆体 |
| 細胞壁 | マンノプロテインなどの多糖類 | 泡の安定性と口当たり |
| 核酸 | ヌクレオチド | 風味への影響の可能性 |
| 膜 | 脂質 | 泡への影響。結果は一様でない |
澱とともに過ごす時間:規則が定めること
澱との接触9か月以上という EU の最低条件は、「トラディショナル方式」という表示を使うための条件です。原産地呼称の規定は、これより長い期間を求めることができます。シャンパーニュの最低熟成期間は、ノン・ヴィンテージがティラージュから15か月以上(うち澱とともに12か月以上)、ヴィンテージが3年以上です。
自己消化はゆっくり進むため、澱とともに過ごす時間が長いほど、その働きに時間を与えることになります。法定の最低期間を超えてどれだけ待つかは、生産者のスタイルの選択です。
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アーチ形のセラーと動瓶台
画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original
ルミュアージュ、デゴルジュマン、ドサージュ
出荷の前に、澱を瓶から取り除かなければなりません。ルミュアージュ(動瓶)では瓶を少しずつ回し、傾けて、沈殿物を瓶口へ滑り落とします。続くデゴルジュマン(澱抜き)でそれを取り除きます。EU の「トラディショナル方式」の規則でも、澱から分離する方法としてデゴルジュマンが挙げられています。
デゴルジュマンの後にはドサージュを行います。少量のリキュールを加え、最終的な甘さを決める工程です。EU の表示用語は糖分で定義されており、ブリュット・ナチュールは糖分3 g/L未満で、二次発酵の後に糖を加えていない場合に限って使えます。エクストラ・ブリュットは0〜6 g/L、ブリュットは12 g/L未満です。
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デゴルジュマン(澱抜き)
画像:Maison Apéro(生成画像) · Maison Apéro original
ベースワインを育む白亜と気候
この地方の気候は海洋性と大陸性の二つの影響を受けており、年平均気温は約11 °Cです。この気候は、酸と糖の繊細なバランスを持つブドウにつながるとされています。
下層土が白亜(チョーク)の場所では、白亜が1立方メートルあたり300〜400リットルの水を蓄え、ブドウ樹にとっての貯水槽として働きます。標高や斜面の向きは畑ごとに異なります。
演習問題:自己消化と澱とともに過ごす熟成
設問
澱とともに熟成させる間に起こる酵母の自己消化が、トラディショナル方式のスパークリングワインをどう変えるかを説明しなさい。放出される物質と、泡・口当たり・香りへの影響に触れること。
模範解答
二次発酵の後、酵母は死んで澱として沈む。プロテアーゼやグルカナーゼなど酵母自身の酵素が細胞をゆっくり分解し、ペプチドやアミノ酸、マンノプロテインなどの細胞壁多糖類、核酸の分解産物、脂質を放出する。マンノプロテインは泡の安定性やまろやかな口当たりと関連づけられ、アミノ酸などの放出物はトーストやブリオッシュを思わせる香りの前駆体になりうる。ワインの pH、アルコール、セラーの温度のもとでは自己消化がゆっくり進むため、その効果は澱とともに過ごす時間とともに大きくなる。EU では「トラディショナル方式」の表示に澱との接触9か月以上が求められる。
採点の目安(10点)
- 酵母の死と、細胞自身の酵素による分解(3点)
- 放出される物質と、泡・口当たりとの関係(3点)
- 香りの前駆体、自己消化の遅さと澱とともに過ごす時間の意味、EU の最低9か月(4点)
瓶の中
- 糖と酵母を加えて瓶を密閉する
- 二次発酵で二酸化炭素がワインに溶け込む
澱とともに
- 糖を使い切った酵母が死ぬ
- 酵母自身の酵素が細胞をゆっくり分解する
グラスの中
- マンノプロテインが泡の安定性や口当たりと関わる
- 放出された物質の一部が香りの前駆体になりうる
よくある質問
スパークリングワインにおける酵母の自己消化とは何ですか?
瓶内二次発酵の後、死んだ酵母の細胞が自らの酵素でゆっくり分解される現象です。澱とともに熟成させる間に、ペプチド、アミノ酸、マンノプロテインなどをワインへ放出します。
トラディショナル方式のワインは、どれだけの期間澱とともに置く必要がありますか?
EU の規則では、「トラディショナル方式」の表示には、キュヴェを構成した時点から同じ事業者のもとで少なくとも9か月間、途切れずに澱と接触させることが求められます。シャンパーニュなど原産地呼称の規定は、これより長い期間を求めることがあります。
エクストラ・ブリュットとブリュット・ナチュールの違いは何ですか?
EU の表示規則では、エクストラ・ブリュットは糖分0〜6 g/Lです。ブリュット・ナチュールは3 g/L未満で、二次発酵の後に糖を加えていない場合に限って使えます。
情報源
- EUR-Lex — 欧州委員会委任規則(EU)2019/33(「トラディショナル方式」などの製法用語、スパークリングワインの糖分表示)
- EUR-Lex — 規則(EU)1308/2013 附属書VII 第II部(高品質スパークリングワインの定義)
- Alexandre, H.、Guilloux-Benatier, M.(2006)「スパークリングワインにおける酵母の自己消化:総説」Australian Journal of Grape and Wine Research 12(2): 119–127
- シャンパーニュ・メゾン連合(UMC)— ドサージュ
- INAO — 原産地統制呼称「シャンパーニュ」の生産基準書
- シャンパーニュ委員会 — よくある質問
- シャンパーニュ委員会 — シャンパーニュとその気候
- シャンパーニュ委員会 — 土壌(石灰質の下層土)
